気候リスクが「将来の課題」から「今日の経営問題」に変わった
先日、東南アジア事業を担当するある商社の方と話をしていて、こんな話を聞きました。 「バンコクで気候対策の業界会合が組まれていたんですが、開催2日前に中止になったんです。理由は……熱波。」 笑い話のようで、まったく笑えない話です。 気候リスクを「議題」として扱う会議が、気候リスクそのものに潰された。 この出来事が象徴して...

「熱波を議論する会議が熱波で中止」——気候リスクがビジネスの現場を直撃し始めた
気候リスクは、もはや将来の課題ではありません。先日、東南アジア事業を担当するある商社の方と話をしていて、こんな話を聞きました。
「バンコクで気候対策の業界会合が組まれていたんですが、開催2日前に中止になったんです。理由は……熱波。」
笑い話のようで、まったく笑えない話です。 気候リスクを「議題」として扱う会議が、気候リスクそのものに潰された。 この出来事が象徴しているのは、気候変動がもはや「将来の課題」ではなく、今ここにあるオペレーションリスクになっているという現実です。
気候リスクは「CSRの話」ではなく、「輸出営業・海外営業の話」になっている
正直なところ、5年前まで日本のBtoBビジネスの現場で「気候リスク」という言葉を使っても、返ってくるのは「うちはメーカーだから関係ないですよ」という反応がほとんどでした。
ところが、私たちが韓国輸出企業の日本市場参入を支援する中で観察している範囲では、2024〜2026年にかけてこの温度感が明らかに変わっています。
変化のトリガーは大きく3つです。
1. 物流の乱れが体感レベルになった 夏場の高温で倉庫内作業が停止する。港の荷役員が熱中症対応で人員が減る。これは日本国内だけの話ではなく、韓国→日本の輸送ルートに絡む東南アジア経由の物流でも起きています。
2. バイヤー側の調達基準に気候条項が入り始めた JETROが2024年に公表した「日本企業のサステナビリティ調達動向」でも、大手製造業の一次サプライヤーへのESG質問票に「自然災害・気候リスクへの対応方針」を求める企業が増加傾向にあると示されています。(JETRO「サステナブル調達に関する調査報告」2024年版より)
3. 保険コストが上がっている これは見落とされがちですが、工場・倉庫・輸送の保険料が気候リスクの上昇を織り込んで上がっています。コスト構造が変わると、価格競争力も変わる。
「現場の話」として起きていること
ここで少し整理したいのですが、「気候リスク」と言うと、すぐに「CO2排出量の開示」や「SBT(科学的根拠に基づく削減目標)」の話になりがちです。 でも実際のビジネスの現場では、もっと泥臭い問題として現れています。
ケース1:夏季の生産・輸送スケジュールが組めない
韓国の食品メーカーが日本向けに冷蔵品を輸出するケースで、私たちが観察している範囲でよく聞くのが「7〜9月のスケジュールが毎年読めなくなっている」という話です。 輸送中の温度管理コストが上がる、港での滞留時間が読めない、最悪の場合は品質基準を満たせず返品になる。
これは「サステナビリティ報告書に何を書くか」という話ではなく、「今年の夏、いくらで、どう売るか」という即時的な経営判断の問題です。
ケース2:海外バイヤーとの商談が「気候条件付き」になってきた
意外だったのは、日本の中堅バイヤーの中に「サプライヤーの拠点が気候リスク地域にある場合、調達比率を上限○%に抑える」という内部ルールを設け始めているところが出てきている、という事実でした。 明文化されていないケースも多いですが、商談の場で「御社の工場、台風ルートに入りますよね」という質問が来るようになった、という声を複数の韓国企業から聞いています。
ケース3:展示会・商談会のスケジュール自体がリスクになる
冒頭のバンコクの事例がまさにこれです。 リアル商談の機会をどう確保するか、という問いの前提が変わりつつあります。 特に東南アジア・南アジア向けのビジネスを展開している企業には、「現地のオフシーズン(比較的気温が安定している時期)」への商談集中が始まっています。
データで見ると、気候リスクの経済的インパクトが見えてくる
気候変動の経済的インパクトについては、Swiss Reが毎年発表している「sigma」レポートが参考になります。 2024年版によると、2023年の自然災害による世界の保険損失は1,080億ドルに達し、過去10年の年間平均の約1.7倍規模となっています。(Swiss Re Institute "Natural catastrophes in 2023" より)
これはあくまで「保険がカバーした損失」の話で、中小企業のアンインシュアード・ロス(保険未対応の損失)まで含めると実態はさらに大きい。
JETROが2025年に公表した「2024年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」でも、海外拠点の経営リスクとして「自然災害・気候変動」を挙げる企業の割合は増加傾向にあります。 特に東南アジア拠点を持つ企業でこの傾向が強く、「対策を検討中または実施中」と答えた企業が2024年調査では回答企業の3割を超えていました。
データを見ていて、ひとつ気づいたことがあります。韓国輸出企業の日本市場参入支援で私たちが蓄積してきたデータでは、気候リスクを商談の文脈で意識的に言語化している企業と、そうでない企業とで、日本バイヤーとの二次商談率に差が出始めています。「うちの物流はこの季節でもこのルートで安定しています」という一言を準備しているかどうか——それだけで、バイヤーの信頼感の温度感が変わる。これは推計ではなく、商談支援の現場で実際に私たちが観察していることです。
「気候リスクは長期のテーマだと思っていたが、今年の夏だけで3回、物流スケジュールの組み直しが発生した」 (RINDAの日本市場デスクへの相談時に寄せられた韓国輸出企業担当者の声)
輸出企業・海外営業担当者が今、具体的に動けること
抽象的な「気候対応が必要だ」という話ではなく、今期の営業計画に組み込める視点をいくつか整理します。
① 商談カレンダーを「気候カレンダー」で見直す
日本国内向けだけでなく、東南アジア・南アジアのバイヤーとの接点を作ろうとしている企業には、現地の気候カレンダーをベースにした商談計画の見直しをお勧めしています。 たとえばバンコクであれば、3〜5月の乾季後半〜暑季は屋外行動の制約が強まります。11〜2月の乾季前半が商談適期として機能しやすい。
こういった「気候的な余白」を意識したアポイントメントの組み方は、日本のB2B商談では見落とされがちなポイントです。RINDAの海外営業AIエージェントでは、この気候カレンダーを踏まえたバイヤーへのアプローチ自動化を支援しており、季節ごとの接触タイミングと訴求メッセージを組み合わせた営業フローを構築できます。
② サプライチェーンの気候脆弱点を地図に落とす
「どの工場が、どの気候リスクゾーンに立地しているか」を可視化するだけで、バイヤーへの説明精度が変わります。 JETROが提供している「ジェトロ世界貿易投資報告」や経産省の「気候関連財務情報開示」ガイダンスは、このマッピング作業の基礎資料として使えます。
難しく考えすぎないことも大事で、まず「うちの主要サプライヤーの拠点が台風・洪水・熱波のどれに曝されやすいか」を一枚のシートにまとめるだけでも、バイヤーとの会話の質が変わる。サプライチェーン全体の気候リスクを把握することが、日本市場参入においても競争優位の基盤になります。
③ 「気候条件付き代替調達先」をセールスに使う
これは少し逆転の発想ですが、自社を「代替調達先」として提案できる文脈が気候リスクの文脈で生まれつつあります。
「メインサプライヤーが気候リスク地域に集中しているバイヤー」への提案材料として、自社の立地・物流ルートの安定性を前面に出す。 「うちの工場はこのルートで、この季節でもこの納期で動きます」という具体的なオペレーション情報が、従来の「品質・価格・モノの良さ」とは別の購買理由になりはじめています。
気候リスクは「報告義務」の話ではなく「競争条件」の話
私たちが韓国輸出企業の日本市場参入を支援する中で最近感じているのは、気候リスクへの対応が「コスト」から「信頼資産」に変わってきているということです。
「うちは小さいメーカーだから、TCFD開示とか関係ない」という声は今でもよく聞きます。 でも実際には、大手バイヤーが一次サプライヤーに課すESG基準は、段階的に二次・三次サプライヤーにも降りてきます。
韓国のスタートアップが日本市場を見ていると、この「ESG基準の下方浸透」のスピードが想像以上に早いことが見えてきます。大手バイヤーのサプライヤー審査で気候対応を問われるようになったのは数年前ですが、今では中堅バイヤーの調達担当者からも同様の質問が来るようになっています。
このプロセスはゆっくりですが、止まりません。
そして「気候への対応方針を持っていない」という事実が、ある日突然、商談の足切り要件になる。 その日が来てから動こうとすると、間に合わないことがある。
まとめ:「熱波で会議が中止」が教えてくれること
冒頭のバンコクの会議中止のエピソードに戻ると、あの出来事は一つのメタファーとして機能していると思います。
気候変動を「議題」として扱っている間は、気候変動は外部の問題です。 でも、気候変動が「会議を潰す」段階になると、それはもう内部の問題です。
ビジネスの現場で気候リスクを「将来の話」として処理してきた企業にとって、その転換点は思ったより早く来るかもしれません。
今期の営業計画を見直すとき、「気候カレンダー」という視点を一行追加してみることをお勧めします。 どの市場で、どの季節に、どんな気候的制約があるか。それだけで、バイヤーとの会話の解像度は変わります。
あなたの海外営業スケジュールに、気候リスクの視点は入っていますか? 商談エリアの気候条件の調べ方など、具体的な疑問があればコメントにてどうぞ。
気候リスクを踏まえたバイヤー開拓の具体的な方法はこちら→ RINDA | 海外営業AIエージェント
よくある質問(FAQ)
Q1. 気候リスク対応の情報を、バイヤーへの提案資料にどう盛り込めばいいですか?
A. 難しく考えすぎず、まず「自社の主要工場・サプライヤーが台風・洪水・熱波のどのリスクに曝されやすいか」を一枚のシートに整理してみてください。それをバイヤーとの商談前に共有するだけで、「リスク管理を考えているサプライヤー」という印象が生まれます。JETROの「世界貿易投資報告」や経産省の「気候関連財務情報開示」ガイダンスが基礎資料として活用できます。
Q2. 気候カレンダーを使った営業計画の見直しは、どこから手をつければいいですか?
A. まず商談を予定している地域の「雨季・乾季・熱波シーズン」を調べることから始めてください。バンコクなら11〜2月が安定した商談期として機能しやすく、3〜5月の暑季はオンライン商談への切り替えを検討するなど、気候に合わせた接触方法の使い分けが有効です。RINDAの海外営業AIエージェントでは、こうした気候カレンダーと連動したアプローチ自動化の設計も支援しています。
Q3. 中小規模の輸出企業でも、気候リスクへの対応を取引先にアピールできますか?
A. できます。大手企業のように詳細なTCFD開示を用意しなくても、「自社の物流ルートがどのリスクに強いか」「代替サプライヤーをどこに確保しているか」を言語化するだけで、バイヤーの信頼感は変わります。実際に私たちが支援した韓国輸出企業の中にも、このアプローチで日本の中堅バイヤーとの商談を前進させたケースがあります。
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